左官の父と絵本の世界

【情景一】はじまりの赤

全ては、母の何気ない一言から始まりました。


プーさんの切り株作ってや


そのリクエストに応え父が初めて形にしたのは、

少し不器用で、けれど温かい赤い切り株でした。

 

46年、左官として歩んできた父の指先が、

家族の願いを「実体」へと変えた瞬間。

それがNoelHatchの原点です。

【情景二】素材に命を吹き込む

黄綬褒章受章、左官一級技能士・竹内紀雄。
彼が向き合うのは、無機質なセメント。

けれど、その手から生まれるのは、

凍てつく樹皮の気配や、時を重ねた石の呼吸です。

叩き、削り、研ぎ澄ます。

盗まれてしまうほどに人を惹きつけたその造形は、

単なる鉢ではなく、使い手と共に歳を重ねる「森の遺物」なのです。

 

【情景三】百の試行錯誤と、一つの型

黄綬褒章をとるほどの職人なら、最初から完璧につくれるのだろう

 そう思われがちですが、実際は全く違います。

私たちが手にするこの一つの作品が生まれるまでに、職人は100個以上の試作品をつくり続けてきました。

46年もの間セメントと向き合ってきた父ですら、

型から外すその瞬間まで、どんな表情を見せるのか、どのような色合いに仕上がるのかは分からないといいます。

そのコントロールできない不完全さ、そして二つとして同じ表情が生まれないからこそ、愛おしさがこみ上げます。

色や形が毎回微妙に違う——。

それは既製品にはない、世界にひとつだけの奇跡の佇まいが、あなたの空間へ届くということです。

【情景四】二つの名前、一つの覚悟

「NoelHatch(ノエルハッチ)」。
偶然にも両親の名を冠したこの場所は、

私から二人への、そして社会への静かな宣言です。

17歳で突きつけられた「障害」という個性を抱え、私は決めました。

組織に馴染む生き方ではなく、父が守り抜いた「本物」を世界へ届ける道を進むと。


46年の技術と、10年の葛藤。

その二つが重なり、今、この一鉢に結実しています。

  • 凸凹な道に、居場所を灯す

    代表・竹内沙綺の告白。発達障害という個性を抱えながら、職人の娘として「自分の居場所」を自らの手で切り拓くまでの、長く、切実な記録。

    物語の続きへ(note) 
  • 46年、セメントに命を宿す技

    黄綬褒章職人・竹内紀雄が培った、5秒の遅れも許されない緻密な世界。伝統の「擬木・擬石」技法が、現代の聖域を創り出すまでの技術論。

    技術の真髄に触れる 
  • 最初の「ありがとう」が届く時

    誰かにとっての「なくてはならない場所」になれた瞬間。初めて利益が出た日に感じた、命のやり取りのような重みと、静かな感動。

    創刊の記憶を辿る